間食を上手に利用して、低栄養予防を(北谷 彩香)
2023年5月24日(水) 13:00栄養食事指導中に高齢の患者さんから「私はあまり動かないから、そんなに食べなくてもいいのよ。」「食欲がないから、朝はコーヒーだけ。」「ご飯と漬物さえあれば十分よ。」という言葉を聞くことがあります。このような発言は低栄養状態もしくは低栄養になりやすい状態かもしれません。
高齢者は移動能力や体力の衰えにより、買い物頻度の減少、重たいものを運びにくい等から食材の確保が難しく、購入する食品が偏ることがあります。また腰痛などで長時間の立位ができず調理作業が難しく、簡単に食べられるものばかりになることがあります。
他にも口腔機能や身体機能の衰えにより食欲がない、歯のかみ合わせが悪く食べやすい食品で毎日同じような食事内容になるなど身体的、精神的、社会的要因が食行動に影響し、低栄養状態になりやすいのです。そこで今回は低栄養予防の食事のポイントを紹介します。
①バランスの良い食事を心がけましょう
栄養バランスの良い食事を食べると言われると、難しいような気がしますが、まずは毎食、主食・主菜・副菜の3つの器をそろえるように心がけましょう(図1)。 主食はご飯、パン、麺類、芋類などで炭水化物を多く含み、エネルギーのもとになります。主菜は肉、魚、卵、大豆製品などでたんぱく質を多く含み、身体をつくるもとになります。
副菜は野菜、海藻、きのこ類、こんにゃくなどでビタミン・ミネラル・食物繊維を多く含み身体の調子を整えます。それぞれ、役割が異なるためこの3つの器をそろえるとバランスの良い食事になります。
そしてこの3つの器に加えて、たんぱく質やカルシウムが多い乳製品や炭水化物やビタミンが多い果物を1日に1~2回程度摂取するとよりバランスが良くなります。

②間食を利用しましょう
食欲が低下している時は1回3回の食事だけでは必要なエネルギーや栄養素を満たすことができません。そこで不足する栄養素を補うために間食を食事の一部分として取り入れてみましょう。
間食と聞くと子供のおやつのイメージが強く、お菓子を食べることを想像される方が多いかもしれませんが、間食も食事と同様、食べる内容が重要です。例えばおやつのせんべいをチーズや魚肉ソーセージに変更すると、蛋白質やカルシウムを摂取することができます。甘い物が食べやすい方はチョコレートや飴よりも豆菓子やプリンの方が蛋白質を多く摂取することができます。他にも炭水化物、ビタミンが摂れる果物もおすすめです。特にキウイフルーツやバナナは果物の中でも様々な栄養素が高濃度に含まれています。
間食は食事が食べられる程度に数回取り入れてください。食べることが難しい場合は1日に摂取する水分をお茶から牛乳へ変更する等でもエネルギーやたんぱく質を補給することができます。
③栄養補助食品を利用してみましょう
最近ではドラックストアやコンビニ等で手軽に栄養補給ができる栄養補助食品が販売されています。5大栄養素(エネルギー、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)を摂れるものやビタミンに特化した飲み物、ゼリー、クッキーなどのいろいろな特徴を持っているものが各社販売されています。
食欲がないときや買い物に行けない時には栄養補助食品を常備し上手に利用していきましょう。他にも完全栄養食として、1日に必要な栄養素を全て網羅したパンやカップ麺等も販売されています。ご自身にあった食品を探してみてください。
高齢者は口腔(嚥下・咀嚼)機能の低下や消化機能の衰えから食事量の減少していることがあります。煮物や野菜などのあっさりした食品を選ぶことで、たんぱく質・脂質が不足していることも考えられます。
自分でできる確認方法として体重計測を定期的に実施し、体重の増減で栄養の過不足がないかのバロメーターにすることもお勧めです。ぜひご自身又はご家族の食事内容を一度振り返って、低栄養予防に努めましょう。
筆者

横浜市西部病院 栄養部
管理栄養士 北谷彩香
患者様とどのように接しているか
一人一人の食生活に合わせたサポートを心がけている
卒業した学校
活水女子大学
同志社女子大学大学院
好きな食べ物
すいか
黒糖かりんとう
栄養や運動は「人と繋がる」ことで活きてくる(井尻 吉信)
2023年5月10日(水) 13:001.心当たりはありませんか?
私は日頃、地域の内科クリニックにおいて、糖尿病や腎臓病などを持つ患者様に対する栄養食事支援を担当しています。その中で最近、以下のような患者様に遭遇する機会が少なくありません。
①80歳、女性、身長153cm、体重38kg(最近低下傾向)、BMI16.2kg/m2(瘦せ型)、目立った疾患なし
「娘から強く言われているので減塩に努めている。テレビで野菜の先食べ(ベジファースト)が体に良いと聞いたから実践中。でも、味気がないし、野菜ですぐに満腹になってしまう。コロナ感染が怖いため、外出することはほとんどない。さらに、最近呂律(ろれつ)が回らなくなってきたため人と会うのが億劫。主食は米飯からお粥に変えたが茶碗1膳はしっかり食べているから大丈夫。」
②77歳、男性、身長165cm、体重50kg(最近低下傾向)、BMI18.4kg/m2(瘦せ型)、目立った疾患なし
「糖尿病になるのが怖いため、米飯などの炭水化物は全てカットして、お肉も油も極力とらないように努力している。コロナ前までは地域の体育館で仲間とスポーツをしていたが、今ではすっかり参加者が減ってしまい、通うことをやめてしまった。その分、一人でせっせとウォーキングを頑張っているが、他者との交流はなく生活に張りがあるとは言えない。体重だけは順調に落ちてきている。」
どこに問題があるの?と思われた方もいると思います。ここで大切なのは、「年齢」を考えなければならないということです。高齢者のみを対象とした最近の研究では、BMI(体格指数)が低いほど死亡率が高くなるという成績も発表されています。つまり、高齢者はある程度の体重を維持することが大切であり、過度の誤った食事制限や運動は逆効果になる可能性があるのです。
例えば①の方に対しては、ベジファーストを見直し、しっかり食べて欲しいたんぱく質から順番に食べること。少し濃い味付けになったとしても、毎日の食事を美味しいと感じてもらいながら、しっかり食べていただくことを優先すべきと考えます。また、人と会話をすることが減ると、お口の筋力低下による咀嚼障害が生じ、主食がお粥に置き換わってしまうケースがあります。この方のように「1膳食べているから大丈夫」とおっしゃる方も多いですが、米飯1膳に比べて全粥1膳のエネルギーは約半分であることに注意が必要です。つまり、今の体重を維持するためには、その年齢や病態に合わせた“正しい食べ方”や“エネルギーを確保する方法”を知っておく必要があります。
②の方は、中年期の時に刷り込まれた知識(米・肉・油の摂り過ぎはダメ)を未だに引きずり、運動によるエネルギー消費量を補い切れていないため体重が減少してきています。ただ、ご本人は「順調に減量できている」と考えていることが一番の問題であり、その誤解を解く必要があります。運動をして筋肉をつけるためには十分な材料が必要です。つまり、各種の食品からバランスよく栄養素を摂取するとともに、しっかりエネルギーをとることが大切となります。
このような時にmealtimeの「パワーアップ食」がおすすめです。私達に必要な栄養素がバランスよく摂れるだけでなく、普段の食事と同じ量でも効率よくエネルギーが摂取できる工夫がされています。
※患っておられる疾患により、お食事の内容等が異なるケースがあります。まずは、医師や管理栄養士にご相談されることをおすすめします。
2.「体重管理」を忘れずに
痩せたいと思っていないのに体重が減少する「意図しない体重減少」はご存じでしょうか?これには十分注意が必要です。そのためにも毎日決まった時間に体重を測定・記録することをおすすめします。また、医師や管理栄養士とお話しする機会があれば、記録したものを持参するようにしましょう。

3.「人と繋がる」ことを大切にする
フレイルとは「加齢に伴い心や身体が衰えた状態」のことを言います。また、フレイルの発症には、筋力低下や低栄養などの「身体的要因」、閉じこもりや独居などの「社会的要因」、認知症やうつなどの「精神的要因」などが相互に関係していることが知られています(図1)。 なかでも、「社会的要因(≒人との繋がり)」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって大きな影響を受けました。実際、千葉県柏市で行われた大規模な研究によると、フレイルには、身体活動に加えて文化・地域活動(人との繋がり)が極めて重要であることが示されています。

2023年5月8日より、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に移行されました。これに伴い、地域での活動が再開されるところも多いと思います。フレイルを予防するためには、「しっかり食べて・しっかり運動」だけでなく、積極的に「人と繋がる」ことで、その効果を上げることが期待できます。さぁ、まずは近くの方との交流機会を増やし、張りのある充実した日々を送っていきましょう!
筆者

医療法人THM 森口クリニック
みやけファミリークリニック
大阪樟蔭女子大学大学院
人間科学研究科 人間栄養学専攻
健康栄養学部 健康栄養学科 臨床栄養学研究室 教授
管理栄養士 井尻 吉信
患者様とどのように接しているか
患者様の「生き方」から学び、そのことを尊重した“心ある支援”に努めています
卒業した学校
神戸学院大学 栄養学部
神戸学院大学大学院 食品薬品総合科学研究科
好きな食べ物
スープカレー、さんまの刺身
バランスのよい食事を意識して低栄養を防ぎましょう!(長谷川 民子)
2023年4月26日(水) 10:00「バランスよく食べましょう」という言葉を聞かれる機会はありませんか?それが実際にはどういうことなのかをお話していきます。(図1)

適切なエネルギーを知る
適切なエネルギーを摂ることで、痩せや低栄養を防ぐことができます。エネルギー源として特に重要なのが主食です。日本人は主食に多く含まれる炭水化物から60%程度のエネルギーを摂っています。ご飯、麺、パンなどの主食を毎食適量摂ることで、必要なエネルギーを補いましょう。1g当たり9kcalである脂質も少量でエネルギー補給が期待できます。揚げ料理が面倒であれば、炒める、オイル入りドレッシングを利用するなど簡単な工夫で、手軽に取り入れましょう。食欲がない時は、間食として食べやすい補食を食事と食事の間に取り入れてみることも一案です。次の食事に影響の出ない量を加減して摂るようにしましょう。ゼリー、プリン、小さめのパンなどは比較的摂りやすい食品です。
適切なたんぱく質量を摂る
たんぱく質を摂ることは身体を維持する上でとても大事です。しかし、過剰摂取が長期間に与える影響についてはまだ、充分にわかっていません。現状では適量の摂取が勧められますので、朝食、昼食、夕食とそれぞれ適量を摂りましょう。食事ごとに一定量を摂ることで、筋肉に刺激が加わり筋肉合成が促されます。朝食の摂取たんぱく質量が少ないことが言われています。朝に卵、ヨーグルト、ツナ、サラダチキンなど摂りやすい食品を加えることで朝食の不足分を補いましょう。
野菜、芋、海藻、きのこ、果物類を摂る
ビタミン、ミネラル、食物繊維など身体のリズムを整える栄養素の補給源として毎食摂ることが勧められます。野菜類の摂取量は1日350gを目安としましょう。野菜類は献立の彩り、ボリューム感を出すためにも重宝します。作るのが面倒だと感じる時も、ミニトマトを添える、千切り野菜を利用するなど手軽に取り入れましょう。
食塩量は適正量にする
食塩の過剰摂取は、血圧の上昇や腎臓への悪影響などを引き起こします。生活習慣病予防において減塩は非常に大切です。食べ方や調理の工夫をすることで、自然に減塩ができます。
1.食べ方の工夫
①汁物・丼物・麺類は多くても1日1回までにして汁は残すようにする
②漬け物・加工食品(ソーセージ、練り物など)の摂取頻度を減らす
③食べる量が多くなると食塩量も増えるので適量摂取を心がける
2.調理の工夫
①味にメリハリをつける→1食中に1品は普通の味付けにして残りの料理は無塩または減塩にする
②薄味でも美味しく食べられる料理法を選ぶ
揚げる、炒める→油の風味を活かす
蒸す→ホイルに包んで蒸し焼きにすると旨みが逃げない
③香りや風味を加える
酸味:レモン ゆず すだち
スパイス:カレー粉 唐辛子
薬味:みょうが 山椒 しそ わさび しょうが
油脂:ごま油 ラー油
食欲低下が見られる高齢者については、極端な減塩は摂取量の低下を招いて低栄養を引き起こす可能性があります。その時は減塩を少し緩めて、食べることを優先することもあります。
バランスよく食べる、そこには食事を美味しく楽しむということも含まれているのではないでしょうか。病態によっては食事に一定の制限が出ることがあります。その中でも、日本にある色々な食材、調理方法を使って日々の食事を楽しみ、低栄養を防ぐことをサポートしていきたいと考えています。
筆者

大阪府栄養士会透析食研究会 会長
管理栄養士 長谷川 民子
患者様とどのように接しているか
身近な存在と感じてもらえるような声掛け、雰囲気づくりを意識しています
卒業した学校
武庫川女子大学 武庫川女子大学大学院
好きな食べ物
うどん
フレイル予防のための食事のコツ(髙﨑 美幸)
2023年4月12日(水) 10:00フレイルって言葉を聞かれたことがありますか?
「フレイル」とは、「身体機能」という”体を動かす力”が低下し、介護は必要ではないけれど、日常生活動作に衰えがみられる状態のことを言います。介護が必要となる”一歩手前”の状態です。例えば、歩く速度が遅くなる、階段の昇り下りがきつくなる、物を握る力が弱くなる、という状態です。こちらのチェック(図1)を行ってみてください。私は1項目のプレフレイルでした。皆さんはいかがでしたか?多くの方はフレイルの状態を経て、要介護状態になると言われていますが、早めに気づいて適切な取り組みを行うことで、健康な状態に戻ることができます。

痩せてきたら要注意
メタボ対策に取り組まれてきた方も多くいらっしゃるかも知れませんが、高齢になると太っている人より、痩せている人の死亡率が高くなります。65歳を過ぎて病気でもないのに痩せてきたら、フレイル予防へのギアチェンジの合図です。
フレイル予防の3つのポイント
1.栄養:食事は元気の源です。健康寿命の鍵を握る「たんぱく質」、不足しがちな「ミネラル(カルシウム、鉄分、カリウム、亜鉛)」、骨や歯・筋肉の健康を保つ「ビタミン(ビタミンD、B6)」を摂るようにします。またお口の健康(口腔ケアといいます)にも気を配ることを忘れないで下さい。
2.身体活動:ウォーキングやストレッチなど身体を動かすことは、筋肉の維持・発達だけでなく、食欲や心の健康にも影響します。
3.社会参加:趣味やボランティア・お仕事などで外出することはフレイル予防に有効です。
フレイル予防のための食事の摂り方
1.フレイルを防ぐには筋肉の維持(=貯筋)が重要
フレイルという状況は、筋肉量の低下が原因です。筋肉量が減っていると、足に力が入らず、ほんの少しバランスを崩しただけで体を支え切れなくなり転んで骨を折ってしまうリスクもあります。年齢を重ねるにつれて筋肉量は自然に減っていきます。通常30~40代をピークに年1%ずつ減少するので、ピーク時と比較した筋肉量は50代で80%、70代なら60%となります。この加齢に伴う筋肉量の減少をなるべく避けるためには、日々、筋肉量を維持する工夫が必要となります。老後に備えて「貯金」だけでなく、虚弱を防ぐための筋肉量の維持、すなわち「貯筋」を行いましょう(図2)。貯筋のためには、栄養を摂ったうえで身体を動かすことが必要だということも覚えておいてください。

2.筋肉の減少をきたしうるカロリー摂取不足を避ける
カロリー摂取量が消費量を上回る場合、食事から摂った糖質・脂質の余剰分は、体脂肪として蓄えられます。逆に、カロリー摂取量が消費量を下回る場合は、食事から摂る糖質・脂質が足りないため、体の活動に必要なエネルギーを補うために体脂肪が分解され、体は痩せます。まずは、身体が痩せないようエネルギー不足を避けることが必要です。自分自身がカロリー不足かどうかは、体重を測ることで判断できます。体重が「月単位で」減っている場合は、「脂肪や筋肉が少しずつ減少している」、つまり、「カロリー摂取量がカロリー消費量を下回っているエネルギー不足の状態」であると考えられます。ご自宅等で定期的にご自身の体重を確認しておくことをおすすめします。
3.朝食でもたんぱく質を摂ることが、「貯筋」の鍵となる
「貯筋のための食生活」のポイントは、カロリー不足を避けること、摂りだめの出来ないたんぱく質を毎食摂ることです。特に朝ごはんのたんぱく質が不足している人が多いことが分かっているので、朝ごはんのたんぱく質を意識して、(例えば卵を1個加えるとか牛乳を飲むなどで)摂ることが鍵になります。皆さんも、朝食でたんぱく質をしっかり食べていないことが多いのではないでしょうか?筋肉量の維持・増加のために、朝ご飯を見直す意義は大きいと言えます。
ここでは、一般的なコツをお伝えしました。詳細には、お一人お一人の身体状況や食生活によって調整できれば尚良いです。お気軽に栄養士に聞いてみてください。
筆者

松戸市医師会 松戸市在宅医療・介護連携支援センター
管理栄養士 髙﨑美幸
患者様とどのように接しているか
患者さんを専門職の目線で丸ごと捉えて、家族のように寄り添い、役立つことを考えて接しています。
卒業した学校
名古屋栄養短期大学
多摩大学大学院 経営情報学研究科
好きな食べ物
すいか
しっかり噛んで、食べて、フレイルを予防しよう(藤本 浩毅)
2023年3月22日(水) 10:00「肉を食べている人は元気だ」とよく聞く。確かに高齢の方で元気な人は、肉が好きな方が多いかもしれない。しかし、いつもこの言葉を聞くときに、心に引っかかる部分がある。それは、肉を食べているから元気なわけではなく、元気だから肉を食べることができているのではないのか?と。肉も魚もたんぱく質を多く含む。このたんぱく質が、低栄養やサルコペニアにはすごく重要だ。だから肉を食べることは低栄養やサルコペニアの予防になることは間違いない。しかしなぜ魚ではなく肉なのだろうか。肉と魚に栄養成分の差は確かにある。やはり、人類と遠く離れた魚類のたんぱく質よりも、同じ哺乳類や進化が近い鳥類のたんぱく質の方が人間の筋肉になりやすい栄養成分なのだろうか。そういうこともあるのかもしれないが、私は、噛む力と消化吸収力に大きなポイントがあるように思っている。

低栄養やサルコペニア予防には、十分なたんぱく質とエネルギーが必要不可欠である。これらが不足することが低栄養やサルコペニアの原因になることは間違いないであろう。他にもビタミンやミネラルも必要だともいわれている。結局はいろんな栄養が必要なのである。そうすると、結果、「必要な量の食事を食べることができているのか」ということになってくるわけである。必要な量の食事を食べるために必要なのが、噛む力と消化吸収力なのである。
嚙む。これは人が食べ物を体に取り入れて最初の消化行動とも考えられる。噛んで食べ物を小さくし、唾液と混ぜ合わせる。この噛む力が弱ければ食べものを小さくすることができないし、食べ物を丸呑みしてしまうことになる。そうすると今度は胃腸での消化に支障がでてしまう。もしかすると、その前に喉に詰まってしまうかもしれない。そのようなことを考えると、噛む力が必要な食べ物とは疎遠になってしまう。
その一つが肉である。噛む力が弱いと肉の塊を食べることをやめてしまうのかもしれない。そして、やわらかい食べ物(ご飯やパン、麺類など)を好んで食べて、結果的に栄養バランスが偏ってしまう(糖質多く、たんぱく質少ない)。でも、もともと肉が大好きであれば、少々硬くても頑張って食べようとする。その結果、噛む力が維持できて必要な栄養を取り入れることができているのではないだろうか。

噛む力の低下はオーラルフレイルの1つである。オーラルフレイルとは、口の機能の衰えのことをいい、噛む力の低下以外に、食べこぼし、ムセ、活舌の悪化、口の中の乾燥などの症状があげられる。オーラルフレイルがある人は、サルコペニアの発症が約2倍になるともいわれている。噛む力の低下→噛めない→やわらかいものを食べる→噛む力の低下→噛めない・・・・と悪循環に陥ってしまい、サルコペニアにつながっている。この悪循環から抜け出すためにも噛みやすいやわらかいものばかりを食べずに、少し硬い食材に挑戦し、噛む力をつけるようにする必要がある。
消化吸収能力にしても同じである。肉はそれほど消化のよい食べ物ではないが、胃もたれせずに食べることができるということは、消化能力が高いと考えられる。消化しにくい食べ物の代表が油脂である。油脂はたんぱく質ではなく脂質である。サルコペニアに一見関係なさそうであるが、十分なエネルギーの確保の観点から大切な栄養である。
たんぱく質は筋肉のもとになるためサルコペニアや低栄養に直結して、必要だとわかりやすい。ではエネルギーはなぜ十分に必要なのか。それは、エネルギーが不足すると、せっかく摂ったたんぱく質が筋肉の材料としてではなく、エネルギー源として使われてしまうからである。身体にとって筋肉を作ることよりも生命の維持の方が大切なので、たんぱく質をエネルギー源として使ってしまう。さらに、摂ったたんぱく質をエネルギーに代えてもエネルギー不足が生じてしまったら、体脂肪だけでなく筋肉も分解してエネルギーに代えてしまう。これがサルコペニアや低栄養につながってしまう。そのために十分なエネルギーが必要であり、脂質が重要なのである。
たんぱく質や糖質が1gあたり4kcalのエネルギーを持っているのに対して、脂質は1gあたり9kcalのエネルギーをもっており、効率の良いエネルギー源なのである。そのため、食事量が減ってしまっている方にとっても、量をあまり増やさずにエネルギーを確保することができる大切な味方である。しかし、唯一の弱点が、消化が悪いというところである。胃もたれしにくい人は揚げ物から摂取してもらえればよいが、揚げ物をあまり食べられない人はどうするか。
一つの方法は、マヨネーズやドレッシングで補給する方法である(ノンオイルやハーフではない)。これらに含まれている油は、乳化という状態になっており、通常の油脂に比べると消化しやすい状態になっているのでお勧めである。マヨネーズは炒め物のサラダ油の代わりに使ったり、味付けの隠し調味料として使ってみてはどうか。
アボカドも油を多く含んだ食べ物であるので、サラダに取り入れたりディップにしてみるとよいであろう。あと最近ではMCTオイルがスーパーでよく見かけるようになった。このMCTオイルは消化吸収の負担が少ない中鎖脂肪酸という油からできている。この油はあまり加熱することには向いていないので、出来上がった料理に小さじ1杯を混ぜたり、みそ汁に入れたりして使用するのがよいだろう。
また、胃腸の調子を整えるためには、決まった時間に食事をとる、しっかりと睡眠をとる、水分をしっかりとるなどの生活習慣を整えることも大事である。
低栄養とサルコペニア予防にたんぱく質とエネルギーが大事だが、それらを摂り入れることのできる身体づくりを行っていく必要がある。
筆者

栄養部 管理栄養士 藤本浩毅
患者様とどのように接しているか
患者さんが話しやすい、話しかけやすいように接している。
卒業した学校
大阪市立大学
好きな食べ物
バームクーヘン(やわらかいけど、層がしっかりとはがれるタイプ)
低栄養・フレイルサルコペニアの予防や対策(宮澤 靖)
2023年3月8日(水) 10:00低栄養・サルコペニアが進行すると、身体の機能が低下することがあります。例えば、日常生活動作が困難になる、転倒しやすくなる、歩行速度が遅くなるなどの症状が現れることがあります。筋力が低下すると、転倒や骨折のリスクが増加することがあります。また、サルコペニアは、心血管疾患の発症リスクを増加させる可能性があります。さらにサルコペニアが進行すると、死亡リスクが増加することがあります(図1)。低栄養・フレイルサルコペニアの予防や対策には、以下のようなことが役立ちます。

1.バランスの良い食事を心がける
身体に必要な栄養素をバランスよく摂取することが重要です。特にたんぱく質は筋肉の合成に必要不可欠な栄養素であり、適切な量を摂取することが重要です。また、ビタミン・ミネラルも不足しないように、野菜や果物などの多様な食材を摂るように心がけましょう。
特におすすめのたんぱく質は、ホエイプロテインというたんぱく質で、乳製品から抽出されるたんぱく質です。たんぱく質の種類の中でも、吸収速度が比較的早いため、運動後のたんぱく質補給に適しています。また、筋肉合成に必要なアミノ酸を豊富に含んでいることも特徴です。
次に紹介するのは、カゼインプロテインです。カゼインプロテインは、ホエイプロテインと同様に乳製品から抽出されるたんぱく質で、ホエイプロテインと比較して吸収速度が遅いため、長時間にわたってアミノ酸が供給されます。そのため、就寝前のたんぱく質補給に適しています。
また、肉類には、筋肉合成に必要なアミノ酸が豊富に含まれています。特に、鶏肉や牛肉には、多くのたんぱく質が含まれており、比較的低脂肪であるため、筋肉を増やすために適しています。豆類には、植物由来のたんぱく質が豊富に含まれています。特に、大豆には、筋肉合成に必要なアミノ酸が豊富に含まれており、肉類に劣らず筋肉合成に効果的です。
2.適度な運動を行う
適度な運動は、筋肉を増強し、骨密度を高めることができます。運動と言うまでも日常生活で積極的に動くだけでも効果は期待できます。
3.医師・管理栄養士の指導を仰ぐ
低栄養、フレイル、サルコペニアになっている場合は、医師の指導を仰ぐことが重要です。医師や管理栄養士と相談しながら、適切な治療や栄養療法を受けることが必要です。
4.ストレスを軽減する
ストレスは免疫力を低下させるため、免疫力を維持するためにストレスを軽減することが大切です。ストレスを減らすためには、適度な運動やリラックスする時間を持つなどの方法があります。
5.社交的な生活を送る
社交的な生活を送ることは、認知機能を維持するのに役立ちます。友人や家族と交流を持ち、新しい人と知り合うことが重要です。
高齢になると、味覚や嗅覚の低下などの身体的変化が起こるため、食事の好き嫌いが増えることがあります。また、健康状態によっても食事の好みが変わることがあります。
食事を楽しむために、できるだけ個々の好みに合わせたメニューを提供するように心がけましょう。例えば、好きな食材や料理を食卓に並べ、食事中に「美味しいね」と声をかけたりすることで、食欲を刺激することができます。
好き嫌いが激しい場合は、食事の種類や調理法を変えることも考えましょう。例えば、野菜嫌いな場合は、スープやジュースにしたり、野菜をすりつぶして調理するなどの工夫が必要です。食事の量や頻度についても、個々の健康状態に合わせて調整することが大切です。
例えば、消化器系の問題を抱えている場合は、少量の食事を頻繁に摂取するなど、消化に負担のかからない方法を検討しましょう。高齢者が一人で食事をすると、つい主食ばかり食べてしまうことがあります。一緒に食事をする人を増やすことで、会話や楽しみを持ち込みながら、バランスの良い食事を摂るように促すことができます。
また、最近では疾患に対応した宅配弁当もかなり充実してきました。糖尿病や高血圧、腎疾患など、それぞれに対応した栄養バランスを管理栄養士が考えてご自宅まで宅配をしてくれます。お食事は毎日のことでご家族もご負担が大きくなってしまいます。安心してご自宅で治療食を食べることができ、介護のご負担も軽減できることが可能なサービスを利用してみることもお勧めします。
筆者

科長 宮澤靖
患者様とどのように接しているか
病態を把握して個別に対応するとともに患者さんのご家庭の食文化を大切に寄り添ったアドバイスに心がけています。
卒業した学校
北里大学保健衛生専門学院
徳島大学医学部大学院
好きな食べ物
お寿司