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中鎖脂肪酸の効能を活用し、身体機能や認知機能の向上を目指しましょう(阿部 咲子)

低栄養が及ぼす影響

 低栄養は、免疫力や治癒力の低下からフレイルやサルコペニアに陥りやすく、また認知機能の低下につながるなど、さまざまな身体への悪影響を及ぼすことが知られています。特にサルコペニアの予防として筋肉量や筋力の向上には筋力トレーニングの実施と高たんぱく質食の摂取の併用が有効とされています。しかし、高齢者の場合は身体に負荷をかける筋力トレーニングの実施やさらなる食事量の増加などは困難な場合が多いです。また特に高齢者の場合、一度低下した身体機能や認知機能を元に戻すことは難しかったりします。

中鎖脂肪酸の利点と効果

 そこで高齢者の身体能力や認知機能の維持、向上につながる方法はないかと考え、油脂である中鎖脂肪酸に注目して研究を行ってきました。油脂は、炭水化物やたんぱく質と比較してエネルギーが2倍以上と高い利点があります。油脂の種類も多様ですが、その中でも特に中鎖脂肪酸は、サルコペニア状態や認知機能が低下した高齢者への栄養管理に適していると考えました。その理由としては、一般的な油脂とは吸収や代謝経路が大きく異なり、4~5倍ほどはやくエネルギーとなります。また、肝臓でケトン体となり、骨格筋や脳などを含む身体のエネルギーとして利用されたりします。

その一方、中鎖脂肪酸に含まれる炭素数8個のオクタン酸を摂取することで、血中のグレリンを活性化し、食欲増加作用や成長ホルモン分泌促進作用、筋肉量や筋力の増加作用、心血管保護作用、抗炎症作用などをはじめとした多彩な生理活性の報告があります。この中鎖脂肪酸の特性を生かし、サルコペニアやフレイル状態、認知機能の低下を有した高齢者に対し、1日6gずつ夕食に混ぜ3か月間摂取したところ、一般的な油脂と比べ筋力や筋肉機能、認知機能の増加につながりました(図1~3)。

図1 右手握力の変化
図2 最大歩行速度の変化
図3 認知機能評価の変化

 今回はグラフを用いて私が行ってきた研究の一部をお伝えしましたが、数値では表しにくい変化も多く感じ取れました。加齢とともに今までできていたことが徐々に行えなくなっていく、記憶があやふやになり不安を常に感じている方も少なくありません。研究結果として歩行速度などの増加がみられ、筋力や筋肉機能、認知機能などの向上は素晴らしいことですが、早く歩けるようになるなど数値を良くすることが目的ではありません。その方にとって転倒リスクなどの軽減につなげ、より安全により安定した状態で日々安心して生活できるようになることの方が大切です。また、日付や場所などが十分に理解できなかったとしても、意欲や集中力が高まり今まで行えていた機能を取り戻すことにより、その方の自信や不安の軽減につながったと感じています。さらに、周囲の方々と楽しく会話ができるようになり、前向きに考えはじめ笑顔が増えるなどの変化がみられたことは生活の中での大きな支えになったのではないでしょうか(写真1-2)。

写真1-2 中鎖脂肪酸摂取前後の認知機能評価の比較

まとめ

 中鎖脂肪酸は、乳製品やヤシ油などに含まれ日常的に摂取されていますが、日本人では0.2~0.3 g/日程度、欧米人では2~3 g/日程度です。コップ1杯の牛乳に0.3g程度含まれていますが、筋力や認知機能などの向上を目指す場合は少ないです。純度の高い中鎖脂肪酸油として市販されています。中鎖脂肪酸油は、無味・無臭、無色透明で他の一般的な植物油に比べて低粘度のためサラサラしているので、味などへの影響は少ないかと思います。また発煙点 (150度程度) が低いため、炒め物や、揚げ物の調理には不向きです。できあがったご飯やお味噌汁、おかずにかける、またヨーグルトや飲み物などに加えて摂ることをお勧めします。

 中鎖脂肪酸の効能や特性をお伝えしましたが、ぜひとも身体機能や認知機能の維持、向上につなげて頂ければと思います。

筆者

帝塚山大学現代生活学部食物栄養学科 管理栄養士 阿部 咲子

患者様とどのように接しているか

病態や背景などを把握したうえで患者様のご希望に可能な限り添えるような栄養管理を心がけています。

卒業した学校

昭和女子大学 大学院 博士後期課程

好きな食べ物

果物