mealtime

しっかり噛んで、食べて、フレイルを予防しよう(藤本 浩毅)

 「肉を食べている人は元気だ」とよく聞く。確かに高齢の方で元気な人は、肉が好きな方が多いかもしれない。しかし、いつもこの言葉を聞くときに、心に引っかかる部分がある。それは、肉を食べているから元気なわけではなく、元気だから肉を食べることができているのではないのか?と。肉も魚もたんぱく質を多く含む。このたんぱく質が、低栄養やサルコペニアにはすごく重要だ。だから肉を食べることは低栄養やサルコペニアの予防になることは間違いない。しかしなぜ魚ではなく肉なのだろうか。肉と魚に栄養成分の差は確かにある。やはり、人類と遠く離れた魚類のたんぱく質よりも、同じ哺乳類や進化が近い鳥類のたんぱく質の方が人間の筋肉になりやすい栄養成分なのだろうか。そういうこともあるのかもしれないが、私は、噛む力と消化吸収力に大きなポイントがあるように思っている。

 低栄養やサルコペニア予防には、十分なたんぱく質とエネルギーが必要不可欠である。これらが不足することが低栄養やサルコペニアの原因になることは間違いないであろう。他にもビタミンやミネラルも必要だともいわれている。結局はいろんな栄養が必要なのである。そうすると、結果、「必要な量の食事を食べることができているのか」ということになってくるわけである。必要な量の食事を食べるために必要なのが、噛む力と消化吸収力なのである。

 嚙む。これは人が食べ物を体に取り入れて最初の消化行動とも考えられる。噛んで食べ物を小さくし、唾液と混ぜ合わせる。この噛む力が弱ければ食べものを小さくすることができないし、食べ物を丸呑みしてしまうことになる。そうすると今度は胃腸での消化に支障がでてしまう。もしかすると、その前に喉に詰まってしまうかもしれない。そのようなことを考えると、噛む力が必要な食べ物とは疎遠になってしまう。

 その一つが肉である。噛む力が弱いと肉の塊を食べることをやめてしまうのかもしれない。そして、やわらかい食べ物(ご飯やパン、麺類など)を好んで食べて、結果的に栄養バランスが偏ってしまう(糖質多く、たんぱく質少ない)。でも、もともと肉が大好きであれば、少々硬くても頑張って食べようとする。その結果、噛む力が維持できて必要な栄養を取り入れることができているのではないだろうか。


 噛む力の低下はオーラルフレイルの1つである。オーラルフレイルとは、口の機能の衰えのことをいい、噛む力の低下以外に、食べこぼし、ムセ、活舌の悪化、口の中の乾燥などの症状があげられる。オーラルフレイルがある人は、サルコペニアの発症が約2倍になるともいわれている。噛む力の低下→噛めない→やわらかいものを食べる→噛む力の低下→噛めない・・・・と悪循環に陥ってしまい、サルコペニアにつながっている。この悪循環から抜け出すためにも噛みやすいやわらかいものばかりを食べずに、少し硬い食材に挑戦し、噛む力をつけるようにする必要がある。

 消化吸収能力にしても同じである。肉はそれほど消化のよい食べ物ではないが、胃もたれせずに食べることができるということは、消化能力が高いと考えられる。消化しにくい食べ物の代表が油脂である。油脂はたんぱく質ではなく脂質である。サルコペニアに一見関係なさそうであるが、十分なエネルギーの確保の観点から大切な栄養である。

 たんぱく質は筋肉のもとになるためサルコペニアや低栄養に直結して、必要だとわかりやすい。ではエネルギーはなぜ十分に必要なのか。それは、エネルギーが不足すると、せっかく摂ったたんぱく質が筋肉の材料としてではなく、エネルギー源として使われてしまうからである。身体にとって筋肉を作ることよりも生命の維持の方が大切なので、たんぱく質をエネルギー源として使ってしまう。さらに、摂ったたんぱく質をエネルギーに代えてもエネルギー不足が生じてしまったら、体脂肪だけでなく筋肉も分解してエネルギーに代えてしまう。これがサルコペニアや低栄養につながってしまう。そのために十分なエネルギーが必要であり、脂質が重要なのである。

 たんぱく質や糖質が1gあたり4kcalのエネルギーを持っているのに対して、脂質は1gあたり9kcalのエネルギーをもっており、効率の良いエネルギー源なのである。そのため、食事量が減ってしまっている方にとっても、量をあまり増やさずにエネルギーを確保することができる大切な味方である。しかし、唯一の弱点が、消化が悪いというところである。胃もたれしにくい人は揚げ物から摂取してもらえればよいが、揚げ物をあまり食べられない人はどうするか。

 一つの方法は、マヨネーズやドレッシングで補給する方法である(ノンオイルやハーフではない)。これらに含まれている油は、乳化という状態になっており、通常の油脂に比べると消化しやすい状態になっているのでお勧めである。マヨネーズは炒め物のサラダ油の代わりに使ったり、味付けの隠し調味料として使ってみてはどうか。

 アボカドも油を多く含んだ食べ物であるので、サラダに取り入れたりディップにしてみるとよいであろう。あと最近ではMCTオイルがスーパーでよく見かけるようになった。このMCTオイルは消化吸収の負担が少ない中鎖脂肪酸という油からできている。この油はあまり加熱することには向いていないので、出来上がった料理に小さじ1杯を混ぜたり、みそ汁に入れたりして使用するのがよいだろう。

 また、胃腸の調子を整えるためには、決まった時間に食事をとる、しっかりと睡眠をとる、水分をしっかりとるなどの生活習慣を整えることも大事である。

 低栄養とサルコペニア予防にたんぱく質とエネルギーが大事だが、それらを摂り入れることのできる身体づくりを行っていく必要がある。

筆者

大阪公立大学医学部附属病院
栄養部 管理栄養士 藤本浩毅

患者様とどのように接しているか

患者さんが話しやすい、話しかけやすいように接している。

卒業した学校

大阪市立大学

好きな食べ物

バームクーヘン(やわらかいけど、層がしっかりとはがれるタイプ)