mealtime

味覚低下を防ぎ、健康長寿を目指しましょう!(井上 椋子)

 年齢を重ねると共に「食事の味を感じにくくなってきてしまった」とお悩みの方はいらっしゃいませんか。
その理由の1つに挙げられるのが、味蕾(みらい)の数の減少です。
味蕾とは、10-100個の細胞が集まり花のつぼみのような形をした口腔内の器官です。舌の粘膜に5000個、口腔内の舌以外の粘膜に2500個あまり存在しており1)、その数は高齢期になると、乳児期と比較し1/3程度まで減少する2)ことが報告されています。

しかし、なぜ味蕾の数が減ると味を感じにくくなってしまうのでしょうか?
味蕾は、食事を摂って、味を脳が認識するまでの過程で、その役割を果たしています。それぞれの味には、もととなる化学物質が存在しています。塩味であれば塩化ナトリウム、甘味であればショ糖、果糖、ブドウ糖がその化学物質にあたります。その情報を検出する役割を果たしているのが味蕾を構成する味細胞です。味細胞が検出した情報が神経を介して脳に伝達されることによって初めて私たちは味を認識できるのです。

味覚の低下は食事量の減少、エネルギー・タンパク質不足の低栄養へと繋がります。
年齢を重ねても、美味しくお食事を召し上がっていただく為、この味蕾の数の減少を防ぐコツをお伝えさせていただきます。

亜鉛を食事に取り入れてみましょう!

 私たちの身体の細胞は新しい細胞に入れ替わるターンオーバーを繰り返していますが、味細胞もその一つです。この味細胞のターンオーバーの時間が亜鉛欠乏により延長することが動物を用いた研究により報告されています3)。亜鉛欠乏を防ぐことは味蕾の数の減少を防ぐ1つの対策として挙げられます。

 亜鉛は、微量ミネラルの一つで、体内では作り出すことができない為、食事から摂る必要があります。厚生労働省による日本人の食事摂取基準(2020年版)での亜鉛の摂取推奨量は成人男性11mg/日、75歳以上男性10mg/日、成人女性で8mg/日とされています4)
それに対し、令和4年国民健康栄養調査における、亜鉛1人当たりの摂取状況は、
65-74歳男性9.4mg/日、75歳以上8.7mg/日、65-74歳女性8.0mg/日、75歳以上女性7.5mg/日と報告されており5)、ご高齢の方の亜鉛摂取量は不足傾向にあるようです。

亜鉛は、動物性食品、穀類、豆類、ナッツ類等に含まれ、含有量トップの食品は、牡蠣(養殖・生)(14.0mg/可食部100g)になります。

 それでは次に、日常的な献立でどのように亜鉛を摂ったら良いかご紹介します。

【1日の献立例】

亜鉛量:6.7㎎

上記の献立はバランスのよい食事に見えますが、亜鉛の量は1日の推奨量より不足しています。亜鉛をより多く摂ることを意識して、食材を少し変えてみましょう。

また、プラスしてみるのもおすすめです。

お食事のバランスを整えることが基本です!

 亜鉛の多い食品摂取に偏ったり、サプリメントでの摂取で、長期的に亜鉛の過剰摂取が続きますと、銅の身体への吸収を阻害し、貧血や、免疫低下を引き起こすことがありますので、ご注意ください。
また、亜鉛以外の栄養素でもタンパク質、鉄分やビタミン類は粘膜を丈夫に保つ働きがあり、脂質には脂溶性ビタミンの吸収を高める働きがあります。味蕾は粘膜上に存在しますので、これらの栄養素も欠かすことができません。
過剰な量の食物繊維、豆類・穀類に含まれるフィチン酸、加工食品に含まれる添加物は亜鉛の吸収阻害因子となります。
特定食品への偏りなく、1日3食主食・主菜・副菜をそろえたバランスの良い食事を摂ることが亜鉛を上手に摂る秘訣でもあります。

唾液はきちんと出ていますか?

 口腔内に取り込まれた味のもととなる化学物質を味蕾に運ぶ役割を果たしているのが唾液です。
唾液の分泌が減ってお口の中が乾燥してしまってはいないでしょうか?
ご高齢の方の唾液分泌量低下の要因の一つに口周りの筋肉低下があります。特に、独居で生活していることで会話の機会が減り日常的に口を動かす機会が減っている場合があります。

お食事の際には、1口あたり30回以上よく噛んで口周りの筋肉を使い、唾液分泌を促すようにしてみて下さい。食前に唾液腺マッサージを取り入れて頂くこともおすすめです。

唾液腺マッサージ 6)

              

健康長寿を目指しましょう!

 これらを実践し味覚の感度が上がると、かける調味料の量が減るなど減塩にも繋がります。また、ミールタイムのお弁当は1食当たり塩分量2g未満で美味しく味わっていただけるようメニュー開発されていますが、その味をより一層感じて頂けると思います。
年だからと諦めずできる対策を取り入れ、いつまでも若々しく元気で、健康長寿を目指していきましょう。

参考文献)
1)山本 隆著,楽しく学べる味覚生理学-味覚と食行動のサイエンス-,建帛社,2023年,p33
2)Arey LB, Tremaine MJ, Monzingo FL:
 The numerical and topographical relations of taste buds to human circumvallate papillae throughout the life span. Anat Rec 1935; 64: 9-25
3)池田稔.(2013).「味覚障害と亜鉛」.Trace Nutrients Research 30,pp110-112
4)厚生労働省.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書,
 令和2年1月21日,p367.https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf,
 (2024年9月7日参照)
5)厚生労働省.令和4年国民健康・栄養調査の結果の概要
 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001296359.pdf,(2024年9月7日参照)
6)東京都パンフレット「口腔機能の維持・向上」(承認番号:6保医医政第1311号)
    

筆者

社会医療法人財団 石心会
川崎幸病院 栄養科
管理栄養士 井上 椋子

  患者さまとどのように接しているか

  価値観を尊重しつつ、的確なサポートができるように
  努めています。

  卒業した学校

  東京医療保健大学

  好きな食べ物
  
  さつま芋