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在宅訪問栄養指導で低栄養の裏にある物語に寄り添う(藤村 真依)

【在宅療養者への食支援】

 在宅訪問栄養食事指導で、私が大事にしていることは、低栄養が改善したり、食事療法がうまくいくことだけではなく、療養者それぞれが抱える背景を理解しながら、生活の質(QOL)や人生の満足度を、食という側面から向上させることである。
QOLや人生の満足度が何であるかは、個々それぞれであり、そのためにはまず、在宅療養者の食を取り巻く現状や課題(表1・2)を理解するとともに、人生の物語に耳を傾けることが大切だと考えている。

表1 在宅療養者の食を取り巻く現状
表2 在宅療養者の食の課題

【親子の物語】

 Aさんは、進行性骨化性線維異形成症(FOP)を患う61歳の男性で、93歳の母親Bさんとの二人暮らしだ。FOPは、患者数200万人に一人の国の指定希少難病で、全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが徐々に硬くなって短時間で骨に変わっていく骨系統疾患であり、Aさんは中学生の時に発症し、徐々に病気が進行し、今では上肢がかろうじて動かせるだけで、全身が骨化しており、座ることもベッドのギャッジアップもできない寝たきり状態である。

そんなAさんを長年介護されてきたのは93歳の母親Bさんであるが、現在は要介護2で杖歩行がやっとのADLである。Aさんは寝たきりではあるが、だから出かけないのではなく、どうすれば外出ができるか、次はどこへ行こうかと計画を立て、楽しみをみつけようとされている。病気という殻に閉じこもらず、病気という殻を背負いながら視線は外に向いている。Bさんはそんな息子が誇らしく、寄り添うことが自分らしさなのである。

 在宅訪問栄養指導の依頼は、Bさんのケアマネージャから「配食や訪問介護による支援がうまくいかないため、食環境が整わず、Bさんの低栄養が進んでいる」とのご相談からであった。

Bさんは加齢に伴うサルコペニアによる摂食嚥下障害、義歯も合っておらず軟菜食(学会分類2021コード3相当)が必要。一方AさんはFOPによる開口障害、咀嚼障害があり、わずかな舌の動きのみで送り込みを行っている状態(学会分類2021コード2-2相当)であった。寝たきりのAさんと要介護2のBさんの食事はどうしているのか。

ここ数年Bさんは買い物や調理するだけの体力や筋力がなくなっており、また、お二人ともいわゆるキザミ食やミキサー食といったような食事を好まず、菓子パンやカップ麺、惣菜のポテトサラダ、卵豆腐など、手に入りやすく、調理がいらず、食べやすいものに偏った食生活となり、低栄養が進行していたようだ。また、Aさんは魚介類と野菜全般が苦手という偏食家だが、Bさんにとって、息子と同じものを食べることが当たり前であり、息子が喜んで食べていることが自身の喜びであり、息子の食事満足度がBさんの食事満足度であった。何歳になっても母と息子である。

そして、お二人とも病気があっても、動けなくても、高齢でも、摂食嚥下機能が低下していても、「食べたいものを食べたい。食べたくないものは食べたくない」という意思をしっかりとお持ちであった。
それらの気持ちに添うべく、嗜好は極力Aさんに合わせつつ、お二人の希望するものを、それぞれの機能に合わせて形態調整するという食支援を行った。

【在宅訪問栄養指導の可能性】

 在宅医療において、「食べたいもの、かつ、食べやすいもの」を患者個人に応じて提供できることは、私たち管理栄養士の唯一無二の支援であり、食べる喜び、生きる喜びに直接的に寄り添うことのできる職種であると思っている。
療養者の人生観や価値観に寄り添いながら、食の満足度を高め、そして足りない部分は栄養補助食品にも頼りつつ、栄養状態だけではなく、QOLを高められるような食支援を行っていきたい。

※本文内容は2022年4月時点のものです。
写真は、ぜひこの病気のことを多くの方に知っていただきたいというAさんおご厚意により掲載させていただいています。

患者様とどのように接しているか

体だけではなく、心の栄養も満たすことのできるような栄養士になりたいと思っています。

卒業した学校

武庫川女子大学短期大学部卒業
武庫川女子大学大学院 在学中

好きな食べ物

パン・コーヒー