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高齢期に重要な筋肉と食事のたんぱく質との関係(森 博康)

はじめに

今回は、高齢期に重要な運動器として筋肉に注目し、なかでも加齢に伴い筋肉や筋力が低下するサルコペニアについて取り上げたいと思います。また、筋肉や筋力を維持するために必要な栄養素として、たんぱく質を中心に、日常生活における食事の進め方についてご紹介できればと思います(図1)。

図1

サルコペニアとは

 サルコペニアとは、加齢に伴い筋肉や筋力、歩く速さが衰える疾患です。これまでの、数多くの研究で、筋肉や筋力が低下した方は、転倒や骨折、要介護状態になりやすいことが報告されています(図2)。このような背景から、高齢期に向けて筋肉や筋力を減らさない、食事や運動などの予防対策は喫緊の課題になっています。日常生活の中で、『最近、筋力が減ったなあ』とか、『歩く速さが遅くなったなあ』と感じることがあれば、筋肉や筋力が低下した、サルコペニアの可能性があります。

図2

 次は、筋肉や筋力が減少する4つの主な原因について紹介します(図3)。筋肉や筋力が減る原因として、最も多いのは年齢です。それ以外では、糖尿病や腎臓病といった病気の重症化や、運動不足、食事からのたんぱく質の不足が挙げられます。とくに75歳以上の方は、食欲が低下しやすく、食事からのたんぱく質の摂取不足に注意する必要があります。

図3

筋肉や筋力を維持するための食事のポイント

 それでは、次に筋肉や筋力を維持するための基本的な食事メニューについて紹介します(図4)。食事の基本は、毎回の食事のなかに、主食、主菜、副菜を揃えて頂くことになります。例えば、野菜を中心とした副菜には、ビタミンやミネラル、魚や肉、卵、大豆といった主菜には、たんぱく質や脂質、米飯やパンなどの主食には、炭水化物といった栄養素が豊富に含まれています。さらに1日1回、食事に乳製品や果物を加えることで、5つの5大栄養素をまんべんなく摂取することができます。これは、成長期の子どもからサルコペニア予防の高齢期まで、全てのライフステージで共通している食事の基本メニューとなります。

図4

 さて次は、筋肉や筋力を維持するために必要な1食当たりのたんぱく質の量について紹介します。65歳以上の方で、筋肉を増やすために必要な、1食あたりのたんぱく質量は約20gとなります。例えば、朝ごはんでしたら、食パン2枚に牛乳1杯、卵1個もあれば、約20gのたんぱく質を簡単に摂取することができます。また、昼ご飯であれば、めし茶碗1杯と、魚の切り身1切れ、みそ汁に豆腐少々を加えて頂ければたんぱく質を約20gとることができます。食事のポイントは、毎回の食事のなかに、1品だけでも良いのでたんぱく質が含まれる主菜メニューを取り入れ、1日3食均等に分けて食べ下さい。そうすれば、1日3回、筋肉を作る働きを高めることができます(図5)。

図5

そして、動物性食品や植物性食品を多様に組み合わせて頂き、1食当たりのたんぱく質を20g前後に調整してみてください。毎回の食事のメニューのなかに、動物性食品と植物性食品の両方から、たんぱく質をバランスよく均等に組み合わせて頂くと、筋肉を作る働きはさらに高まります(図6)。

図6

朝食の食事メニュー(例)

 日本人が注意すべき食習慣の特徴として、朝ごはんからのたんぱく質の摂取量が少ないことが挙げられます。それでは、朝ごはんをもとに、たんぱく質を約20g摂取できる食事メニューを少し紹介します(図7)。例えば、習慣的に朝ごはんで食パン1枚しか、食べない方は、たんぱく質が15g不足しています。そのため、可能であれば、卵1個やスライスハム1枚、牛乳コップ1杯とって頂ければ、朝ごはんでたんぱく質を約18g摂取することができます。

一方、朝ごはんで、めし茶碗1杯しか食べない方は、たんぱく質が16g不足します。そのため、魚の切り身1切れの他、みそ汁などで豆腐50g程度とって頂ければ、朝ごはんでたんぱく質を約17g摂取することが出来ます。食事の基本メニューは主食、主菜、副菜メニューですが、どうしても主食では、たんぱく質が不足してしまいます。筋肉や筋力を維持するためも、まずは1品だけでも良いので、比較的食べやすい食品などから、少しずつ、はじめてみてはいかがでしょうか。

図7

筆者

新潟医療福祉大学
健康科学部 健康栄養学科
管理栄養士 森 博康

患者様とどのように接しているか

これまで病院の糖尿病療養指導に従事していました。

卒業した学校

鈴鹿医療科学大学、中京大学、徳島大学

好きな食べ物

和菓子