フレイル予防~ギアチェンジをしよう~(西山 愛)
健康管理には、70歳前後を境にメタボ予防からフレイル予防へ“ギアチェンジ”が必要なことをご存じでしょうか。
私は長年にわたり、多くの高齢者の方々に栄養指導や栄養相談、健康相談を行ってきました。その中で、「年だからしょうがない」「まだそんな年ではない」といったように、年齢を理由にご自身の現在の状態を受け入れられない方に多く出会ってきました。
また、「痩せているほうが健康」「ヘルシーな食事が一番」と考え、フレイルや低栄養のリスクが高い状態でも、若い頃の健康意識のまま生活を続けている方も少なくありません。
フレイルは、ある日突然襲いかかってくるものではありません。60代でフレイルになる方もいれば、90代になっても自立していきいきと生活している方もいらっしゃいます。老いは誰にでも訪れるものですが、早い段階から対策を取っておくことで、その進行を緩やかにすることができるのです。
健康管理のギアチェンジ
中年期と高齢期では健康課題が異なるため、健康管理の重点も変化していきます。
中年期までは、過栄養やメタボ対策として、生活習慣病の予防を目的に「エネルギーの摂り過ぎに注意し、運動で消費すること」がポイントでした。
しかし、中年期の対策をそのまま高齢期以降も続けてしまうと、老化や体力の衰えを加速させ、フレイルや低栄養のリスクを高めてしまいます。高齢期では、要介護状態を遠ざけるために、低栄養・フレイル対策として「エネルギーとたんぱく質の摂取不足に注意し、筋肉を維持するための運動を行うこと」が重要になります。
「何歳になったらギアチェンジをする」という明確な区切りはありません。個々の健康状態に応じて、できるだけ早い段階から意識して対策を取ることが望ましいでしょう。

フレイル予防のための体重管理
どの年代においても「肥満は健康によくない」という意識は高い一方で、「やせ」に対する危機感はあまり高くありません。しかし、日本人の食事摂取基準(2020年版)では、フレイル予防と生活習慣病の発症予防の両方に配慮する必要があるため、高齢期の目標とするBMIの範囲が、若年期とは別に設定されています。
具体的には、
49歳までは BMI18.5 kg/㎡未満が「やせ」
65歳以上では BMI21.5 kg/㎡未満が「やせ」
とされています。つまり、年齢を重ねるにつれて、体重管理もギアチェンジが必要になるのです。また、70歳以上ではBMIが27~28 kg/㎡程度までは健康への悪影響は少ないといわれています。したがって、高齢期以降は「少しぽっちゃり」しているくらいが、むしろ健康的だと考えられます。

よりよく食べることを意識する
高齢期になると、さまざまな要因によって食が細くなりやすくなります。ところが、食が細くなることに危機感を持つ方は意外と多くありません。多くの方が「年だから仕方がない」「年寄りだから、このくらいの量で十分」と安易に考えてしまいがちです。
しかし、これまで説明してきたように、栄養不足はフレイルの大きな要因となります。「食が細くなった」というのは、体が発するイエロー信号です。食欲が落ちた原因に対して適切な対策を講じたり、少ない量でも効率よく栄養を摂る工夫をしたりと、食べることに対する意識を若い頃以上に持つことが大切です。
低栄養が診断名に
最近のホットな話題として、世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類の最新版「ICD-11」において「成人低栄養」を新たに正式収載しました。つまり、低栄養は「病態」ではなく「疾病」として認められたのです。低栄養が病気として広く認識され、予防に取り組むことが当たり前となる社会になることを切に願います。
参考文献:
厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」
筆者

社会福祉法人じねんじょ 管理栄養士 西山 愛
患者様とどのように接しているか
患者様・お客様に寄り添い、同じ目線で考えながら、行動を変えるきっかけづくりを大切にしています。
卒業した学校
東筑紫短期大学
好きな食べ物
スイーツ













