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体内時計を意識して、良い朝食習慣で元気はつらつ!(木下 かほり)

1. 体内時計を意識するって?

 皆さんもご存知のとおり、太陽の日の出から日の入りによる地球の明暗周期は24時間です。しかしながらヒトの体内時計の周期は約25時間と、地球の明暗周期より少し長いことが知られています。そのため、私たちは体内時計を地球の24時間周期に合わせてリセットする必要があり、そのスイッチを押すのが光、運動、そして食事です。
朝の目覚めに太陽光を浴びて、規則正しく朝食を食べることで、体内時計がリセットされます。体内時計のリズムが乱れてくると、糖尿病や腎臓病、心臓病などの生活習慣病になりやすくなるため、体内時計のリズムを整えることは健康維持に重要です。

2. 朝食が大切なのは体内時計調節のためだけじゃない

 近年の研究で、朝食は体内時計の調節だけでなく、筋肉の健康維持にも重要なことがわかってきています。筋力が低下すると、要介護状態になりやすいことはよく知られていますが、筋力は30~40代をピークに加齢とともに低下します。そのため、中年期以降の筋力低下を防ぐことが、高齢期の健康維持に重要なのです。
筋肉の合成には「たんぱく質(アミノ酸が集まったもの)」が必要です。筋肉はアミノ酸の貯蔵庫としての役割も担っており、食事からとるアミノ酸が足りないと、筋肉のアミノ酸を分解して使用するため、筋肉が減少しやすくなり、筋力も衰えやすくなります。
朝食は、睡眠による長い絶食時間の後、1日の活動の前に食べる最初の食事です。つまり活動に必要なエネルギー補給や筋肉への栄養補給に重要です。一般的に、朝・昼・夕の食事の中で朝食が一番少なくなりがちですが、1日に食べるたんぱく質の総量が同じであっても、たんぱく質の配分を夕食より朝食で多くすることで骨格筋の合成率が最も高まることを示した研究結果が2021年に報告されました。

3. とはいえ、食事摂取量が減少しやすいことは高齢期の特徴のひとつ・・・

 高齢期では、齢と共に食欲が低下し、食事摂取量が減少しやすくなることが知られています。これは、加齢に伴って、食欲調整ホルモンの分泌不全、消化管機能の低下、視覚・味覚・嗅覚の低下、複数の慢性疾患を抱えた多病状態などの生理的な変化が生じやすくなることや、孤独、買い物に出かけにくく食品へのアクセスが悪い、経済的問題といった環境的な要因などが影響すると考えられています。このように、加齢とともに食事摂取量が減少しやすい高齢者において、朝食で多くのたんぱく質をとることはなかなか難しいかもしれません。

4. たんぱく質の「質」を考えよう

 筋肉や臓器など身体の20%はたんぱく質でできていますが、体たんぱく質は分解と合成を繰り返しており、毎日一定量が体外に排泄されるため、食事からたんぱく質をとる必要があります。
「良質なたんぱく質」という言葉を聞かれることがあると思います。これは、食品に含まれるたんぱく質の生物学的利用能が高い、つまり、体たんぱく合成に利用されやすい食品たんぱく質を指しています。食品たんぱく質を構成する20種類のアミノ酸のうち9種類は必須アミノ酸(体内で合成できないアミノ酸)です。食品たんぱく質に含まれる必須アミノ酸のバランスで、たんぱく質の「質」が決まります。その指標になるものを「アミノ酸スコア」と呼びます。これは、図1のように、桶の図で表現されることが多く、桶を構成する板一枚ずつを必須アミノ酸の含有量に例えて考えます。右側の桶は全ての必須アミノ酸の板が十分長いため水がたっぷり入っていますが、左側の桶はリジンという必須アミノ酸の板が短いため、水がこぼれてしまっています。桶の中の水は、体たんぱく合成に利用されるたんぱく質の量をあらわしています。食事中たんぱく質量の計算上の値が同じでも、必須アミノ酸のバランスが悪くたんぱく質の質が悪いと、利用効率の悪いたんぱく質となります。

図1 たんぱく質の質をあらわすアミノ酸スコアのイメージ

5. 朝食のたんぱく質の質に注目した、私たちの研究から

 食品を組み合わせることにより、それぞれの食品に足りないアミノ酸を補い合い、たんぱく質の質を高めることができます。私たちが行った、60歳以上の地域住民を対象とした最大9.2年間の追跡調査では、たんぱく質の質が高い朝食をとっている人ほど、将来の筋力低下をおこしにくいことが分かりました(図2)。興味深いことに、昼食や夕食のたんぱく質の質は、将来の筋力低下とは関連していませんでした。私たちの別の研究で、朝食のたんぱく質の質は認知機能維持にも重要な可能性が分かっています。
たんぱく質の質が低い食事では、体たんぱく合成への利用効率が悪いため、より多くのたんぱく質を摂取しなければならないことが考えられます。したがって、食事の摂取量が少ない人ほど、たんぱく質の質が高い食事にすることが重要です。

図2 朝食のたんぱく質の「質」と将来の筋力低下

6. たんぱく質の質が高い朝食

 たんぱく質の量はほぼ同量で、質が異なる献立を立ててみると図3のようになります。

図3 たんぱく質の質が低い食事と質が高い食事

どちらの献立もたんぱく質の量は20g前後ですが、たんぱく質の質をあらわすアミノ酸スコアは大きく異なっていますね。良質なたんぱく質を多く含む食品には、肉・魚・卵・大豆・乳があります。肉・魚・卵・大豆を用いたおかずを主菜として、毎食1~2品食べることが重要です。食事量が少なくなりがちな朝食では、主菜に加えて、牛乳やヨーグルトをとると良いでしょう。図3の「質が高い食事」では主食・主菜・副菜を組み合わせていますね。準備が大変でも図4のように、納豆や卵など調理不要なものや、前日の残り物などを組み合わせる工夫も良いでしょう。また、図3の「質が低い食事」では、小麦を主原料としたパン類を主食としています。穀類にもたんぱく質が含まれますが、穀類のたんぱく質には必須アミノ酸のリジンが少なく、なかでもとくに小麦は含有量が少ないため、小麦を主食とした食事では、たんぱく質の質が低くなりがちです。

図4 忙しいときの工夫

7. まとめ

 規則正しい朝食の摂取は体内時計の調節に大切です。さらに、朝食で何を食べるかも重要であり、朝からたんぱく質をしっかり食べることは筋力を維持し健康長寿に重要と思われます。食事量が少なくなりがちな場合は特に、たんぱく質の質の高い食事になるよう心がけると良いでしょう。

筆者

国立研究開発法人
国立長寿医療研究センター 研究所
管理栄養士 木下かほり

患者様とどのように接しているか

現在の仕事は研究業務ですが、病院で勤務していた頃は、患者様と一緒に笑って時には悲しみを分かち合えるような関係構築を目標にしていました。

卒業した学校

椙山女学園大学生活科学部食品栄養学科
椙山女学園大学大学院生活科学研究科
名古屋大学大学院医学系研究科

好きな食べ物

マンゴー、巨峰、いちじく、納豆巻き、鶏の照り焼き、海老の天ぷら