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フレイル予防のためのセルフチェック(熊澤 勇介)

 病院で栄養士をやっておりますと「体に良い」「病気に効く」食べ物はありませんか、と聞かれることが多くあります。よくある質問だけれど、返答はなかなか難しい。答えはあるとも言えるし、ないとも言えるからです。
実際、専門家に聴くまでもなく、コンビニやスーパーでもその手の効果を謳う商品は溢れています。日本では健康増進法によって、食品の機能性表示には一定の根拠が担保されるようになっていますから、血圧に良い、あるいは体脂肪を減らすのを助けるといった食べ物はあると言えます。しかし、それを積極的に勧めるかというと必ずしもそうではありません。健康効果を謳う食品を足し算のように組み合わせても正しい食事バランスにはならないからです。

良い食習慣とは正しい細部の寄せ集めではなく正しく整えられた全体です。食事・生活・運動習慣を総合的に眺めて、その中で足りないもの、減らすもの、維持すべきものを探し、改善するための方法を見出すことが重要です。健康を保つための秘訣は「みんな」の体に良いものをさがすより、「自分自身」に必要なものをさがすこと、とりもなおさず自分自身の状態を知ることなのです。

加齢と共に訪れた変化を知り、今変えるべきことを知りましょう

 一般論として、年齢を重ねれば、体力、気力が低下します。健康寿命という言葉をご存知でしょうか。生命の終わりを指す生物学的寿命に対して、自立した生活が出来なくなるまでの期間を指す言葉です。
この健康寿命が終わりに近づいている時期は「フレイル」と呼ばれ、近年の栄養問題のキーワードとなっています。なぜかと言いますと、フレイルが要介護状態に至る前段階であると同時にそれを予防し、また回復し得る重要な時期であるからです。食事は生活習慣に密接に結びついたものであり、積み重ねた経験そのものが継続する根拠となってしまっているものが多くあるはずです。昔有効であったものが今もそうであるとは限りません。

フレイルに差し掛かる段階においては、何かを足すよりも、まず自分の習慣を見直す必要があります。また、長年続けた習慣であっても、食が知らず知らず細くなってやせてしまっていたり、同じ量を食べているはずなのに体重が増えていたり、いつの間にか味付けが濃くなって塩分摂取が増えていたり、といった風に変化は珍しくないどころか、遅かれ早かれ必ず起こります。
行動経済学では人間は今現在の行動を高く見積もる傾向があることが知られており、これを「現状維持バイアス」と言います。まず今の視点から離れること、「見える化」することにより、現状を客観的情報として把握してみましょう。

日々の記録をとりましょう

 まずは栄養の消費と供給のバランス、つまり運動量と摂取量を知ることが重要です。生活習慣を記録するには様々な媒体がありますが、スマートフォンやスマートウォッチといったデバイスをお持ちでしたらこれらを利用すると効率的です。中でも万歩計機能は多くのデバイスに実装されており、最も利用しやすい情報です。その他にも、食事や脈拍等を記録し、分析できるアプリが多数リリースされており、例えば、食事の写真を撮るだけで摂取エネルギー量を推算し、アドバイスまでもらえたりします。こうした個人の健康・医療・介護に関する情報はパーソナルヘルスレコード(PHR)と呼ばれ、電子化された記録は今後、マイナポータルと連携して医療情報と統合されることで、より個人の健康状態にあわせた健康増進プログラムや予防プログラムの提供に役立つことが期待されています。

現状に基づいて目標を立ててみましょう

 次に、現状に基づいて、具体的な目標を立ててみましょう。フレイルは老化に伴って様々な健康障害に対する脆弱性が増加している状態ですので、しっかり食べて、運動をすることが基本になります。高齢期において、やせは肥満よりも死亡率が高くなります。65歳を過ぎて病気でもないのに体重減少があるようなら要注意です。やせている状態、つまりエネルギーが不足している状態で食事を変えず、運動を増やしても筋肉は増えるどころか、減少してしまいます。体重が減っているか、増えているか、そして適正な範囲内にあるかを確認しましょう。やせていて、さらに体重減少があるならまずは摂取量、特にタンパク質摂取の増加を図る。適正範囲内にあるが増加傾向にあるなら、食事量を見直しつつ運動を増やすなど目標は変わってくるはずです。
運動については「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」を原則としつつ、筋力トレーニングを週2-3回実施することが推奨されています。また、可能であれば有酸素運動と組み合わせるとさらなる健康効果が期待できます。

独立行政法人国立病院機構
相模原病院 栄養管理室 主任
管理栄養士 熊澤勇介

患者様とどのように接しているか

大切に思っている事柄を理解して、それに沿った提案を出来るよう心掛けています。

卒業した学校

二葉栄養専門学校(現、吉祥寺二葉栄養調理専門職学校)

好きな食べ物

寿司