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低栄養の改善にMCT(中鎖脂肪酸油)を活用しよう(國見 友恵)

1.栄養のギアチェンジと高齢者が抱える課題

 厚生労働省は、1978年より国民健康づくり対策を始めました。2013年、第3次国民健康づくり対策では(1)健康寿命の延伸と健康格差の縮小、(2)主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底、(3)社会生活を営むために必要な機能の維持および向上など「低栄養傾向(BMI20㎏/㎡以下)の高齢者割合増加の抑制」が新たに設定されました。

 年齢による栄養のギアチェンジ、中年期(40~64歳)までは、生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症)の予防、高齢期(65歳以上)からは、低栄養やフレイル予防としてバランスのとれた食事をとることが推奨されています。

 高齢者は筋肉量が減少することによる基礎代謝量(血液循環、呼吸や体温調整、腎臓や胃腸機能を維持すために必要なエネルギー)の低下、加齢に伴う活動量の低下がみられます。また社会とのつながりの減少や将来への不安等から食事量が減少し、低栄養をきたしやすいと言われています。病院や施設では食欲が低下した方に高栄養の飲料やゼリーなど栄養補助食品を紹介することがあります。

 しかし、食べ慣れない食品であることや毎日食べることによる飽き、甘いものが多く嗜好に合わない等の理由から継続困難なケースが見受けられます。そこで今回は普段の食事に添加するだけで栄養量がアップできる方法をお伝えしていきます。

2.MCT(Medium Chain Triglyceride:中鎖脂肪酸油)とは

 脂肪はグリセリン+脂肪酸からできています。脂肪酸は、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3つの分類からなり、長鎖脂肪酸は大豆油、なたね油、オリーブオイル、ラードなど油脂のほとんどに含まれています。

 MCTの主成分である中鎖脂肪酸はココナッツやパームフルーツなどに含まれている植物由来の成分で母乳や牛乳などにも含まれています。無色透明、無味無臭、水に溶けやすい、発煙点(160℃)が低いことから、揚げたり、炒めたりせずに料理や飲料にそのままかけたり、混ぜて簡単に摂ることができます。

 特徴
 (1)すぐにエネルギーとして分解される(一般的な油の約4倍の速さ)(図1)
 (2)グレリン(胃から分泌されるホルモン)を活性化することで食欲を増加させる
 (3)ミトコンドリアを活性化して脂肪を燃えやすくする

図1 中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸の消化・吸収の違い


3.低栄養の改善にむけて

 これまでの研究では、低栄養のリスクの高い高齢者がMCTを1日6g、12週間継続して摂取した結果、体重の増加や栄養状態指標の1つであるアルブミンの改善が認められています。(野坂直久ほか.日本臨床栄養学雑誌.2010;32(1):52-61)

 当院の入院患者さんでは食事が進まない方にMCTオイルやMCT含有ゼリーを提供したところ、体重が増えた、食事が全量摂取できるようになり、車椅子で過ごす時間が増えたなどのケースがみられています。

 医療現場では1960年代より安全性の高さから「未熟児、てんかん(ケトン食)、腎臓病」などの栄養補給にMCTが広く利用されてきました。最近では医療や介護の現場において低栄養の改善目的にも活用されています。ご飯やお粥、みそ汁やスープ、カレーライスやシチュー、サラダのドレッシング、牛乳やヨーグルト、スムージーなどにかけるだけで食事量を増やさず、家族と同じ食事を摂ることができます。下痢や胃部不快感などを生じることがあるため、小さじ1杯(約4.5g)/日から始めていきましょう。

困ったときの相談窓口

 「どこに行ったら栄養士に会えるの?」といったお問い合わせをいただくことがあります。各都道府県には栄養士会が中心に運営している「栄養ケア・ステーション」があります。食・栄養の専門職である管理栄養士・栄養士が所属する地域密着型の拠点です。

 地域住民の方はもちろん、医療機関、自治体、健康保険組合、民間企業、保険薬局などを対象に管理栄養士・栄養士を紹介して、用途に応じたさまざまなサービス(食や栄養に関する相談、市民祭りでの栄養相談、自治体・学校・企業むけの料理教室、通院困難な在宅療養中の方への栄養食事相談など)を提供することができます。まずはお住いの栄養ケア・ステーション(都道府県栄養士会)にご相談ください。

筆者

医療法人社団三喜会
鶴巻温泉病院
診療技術部
 栄養科 科長
管理栄養士 國見 友恵

患者様とどのように接しているか

最後まで「食」を通して患者さん、ご家族を支援する

卒業した学校

東京家政学院大学

好きな食べ物

納豆&卵かけごはん