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お口の衰えを見逃さないで! オーラルフレイルを知って、健康長寿を目指そう(百木 和)

はじめに——「ちょっとした変化」が老化のサイン

「最近、食事中によくむせるようになった」「硬いものが噛みにくい」「言葉が出てきにくく、滑舌が悪くなった気がする」——。そんな小さな変化を、「歳だから仕方がない」と見過ごしていませんか?

実はこうした口まわりのささいな衰えは、オーラルフレイルと呼ばれる重要なサインです。

**オーラルフレイル(Oral Frailty)**とは、噛む・飲み込む・話すといった口腔(こうくう)の機能が衰えた状態のことです。「フレイル」とは、健康な状態と要介護状態の中間にある「心身の活力が低下した段階」を指します。その中でも口の機能低下に着目したのが、オーラルフレイルです。

わずかなむせや食べこぼし、滑舌の低下といった口腔機能の衰えが進行すると、食べる力の低下、さらには全身の筋力低下・認知機能低下・社会的孤立、要介護状態へとつながる負の連鎖を引き起こします。つまり、お口の衰えは単なる「歯の問題」ではなく、全身の健康に直結する重大なサインなのです。

フレイルドミノ(「歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版」日本歯科医師会より引用)

大規模研究によれば、オーラルフレイルがある高齢者は、そうでない人と比べてフレイルになるリスクが約2.4倍、身体機能低下のリスクも約2.4倍、死亡リスクが約2.1倍高いことが報告されています。(参考:健康長寿ネット)

こんな症状に心当たりはありませんか?
以下の項目は、オーラルフレイルの早期サインです。いくつか当てはまる場合は、注意が必要です。

✅ 半年前と比べて、硬いものが食べにくくなった
✅ お茶や汁物でよくむせるようになった
✅ 滑舌が悪くなった、言葉がはっきり出ない
✅ 食事中に食べこぼしをするようになった
✅ 口の中が乾燥しやすい(ドライマウス)
✅ 歯が少なくなってきた(20本未満)

オーラルフレイルの主な原因は加齢ですが、それだけではありません。歯の喪失(虫歯・歯周病による抜歯)、不十分な口腔ケア、糖尿病などの慢性疾患、薬の副作用による口内乾燥、さらには「やわらかいものしか食べない」「人とあまり話さない」といった生活習慣も大きく影響します。

特に注意したいのは、社会的な孤立です。会話の機会が減ると、舌や唇、頬などの口まわりの筋肉が自然に衰えていきます。笑ったり、しゃべったりすることそのものが、実は口の体操になっているのです。

今日からできる! オーラルフレイル予防の3本柱

オーラルフレイルは、早期に対応すれば改善・予防が可能な状態です。毎日の生活の中で、次の3つを意識してみましょう。

 ① 食べ方の工夫——「噛む力」を守る
食事はできるだけ一口30回を目安によく噛みましょう。ごぼう・れんこん・小魚・ナッツ類など、噛み応えのある食材を意識的に取り入れることも効果的です。やわらかいものばかりを食べていると、咀嚼筋(かむための筋肉)が衰え、悪循環に陥りやすくなります。また、食事中はテレビやスマホを控え、食べることに集中する習慣を大切にしましょう。

② よく話し、よく笑う——「口まわりの筋力」を維持する
会話は、唇・舌・頬などを使う自然な口の運動です。家族や友人との会話を増やすことが、そのまま口腔機能の維持につながります。発声練習として「あ・い・う・え・お」をゆっくり大きな口で発音する習慣も効果的です。特に「い」と「う」は、口の筋肉をバランスよく動かすトレーニングになります。

 ③ 口腔体操——「口の機能」をトレーニングする
パタカラ体操は、日本歯科医師会も推奨する口腔体操の代表格です。「パ・タ・カ・ラ」をひとつひとつ大きくはっきり発音することで、唇・舌・喉の筋肉を総合的に鍛えられます。また、「あいうべ体操」(「あー」「いー」「うー」「べー」と口を動かす)は、口の筋力アップだけでなく、鼻呼吸の改善にも効果的です。唾液腺マッサージ(耳の下や顎の下を優しく押す)も、口腔内の潤いを保つために有効です。

1日2回、朝と夜に取り入れるだけで十分です。ぜひ毎日の習慣にしましょう。

パタカラ体操(「お口の働きを高める体操」大阪府歯科医師会より引用)

歯科医院での定期チェックが大切

セルフケアと並んで重要なのが、歯科医院での定期的なメンテナンスです。虫歯・歯周病の治療、入れ歯の調整、噛み合わせのチェックなどを通じて、口腔環境を整えることができます。「最近お口のことが気になる」と感じたら、まずはかかりつけの歯科医院に相談してみてください。

おわりに——「よく噛み、よく話し、よく笑う」ことが健康寿命を延ばす

お口の健康は、全身の健康の入り口です。「食べる喜び」「話す楽しさ」「笑顔でいること」——これらすべてが、オーラルフレイル予防の土台となります。

小さなサインを早めにキャッチし、毎日の口の体操と食習慣の見直しを続けることが、健康で自立した生活を長く送るための確かな一歩となります。今日から、あなたのお口のケアを始めてみませんか。

引用元:
・歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版(日本歯科医師会)
・お口の働きを高める体操(大阪府歯科医師会)

筆者

摂南大学 農学部 食品栄養学科
教授 百木 和

学生様とどのように接しているか

現場を離れているので、学生達と接することが多いですが、社会に出た時に困らないようにとの思いから、学生達には厳しめに指導しています。

卒業した学校

大阪市立大学大学院

好きな食べ物

甘いもの全般、コーヒー