栄養や運動は「人と繋がる」ことで活きてくる(井尻 吉信)
1.心当たりはありませんか?
私は日頃、地域の内科クリニックにおいて、糖尿病や腎臓病などを持つ患者様に対する栄養食事支援を担当しています。その中で最近、以下のような患者様に遭遇する機会が少なくありません。
①80歳、女性、身長153cm、体重38kg(最近低下傾向)、BMI16.2kg/m2(瘦せ型)、目立った疾患なし
「娘から強く言われているので減塩に努めている。テレビで野菜の先食べ(ベジファースト)が体に良いと聞いたから実践中。でも、味気がないし、野菜ですぐに満腹になってしまう。コロナ感染が怖いため、外出することはほとんどない。さらに、最近呂律(ろれつ)が回らなくなってきたため人と会うのが億劫。主食は米飯からお粥に変えたが茶碗1膳はしっかり食べているから大丈夫。」
②77歳、男性、身長165cm、体重50kg(最近低下傾向)、BMI18.4kg/m2(瘦せ型)、目立った疾患なし
「糖尿病になるのが怖いため、米飯などの炭水化物は全てカットして、お肉も油も極力とらないように努力している。コロナ前までは地域の体育館で仲間とスポーツをしていたが、今ではすっかり参加者が減ってしまい、通うことをやめてしまった。その分、一人でせっせとウォーキングを頑張っているが、他者との交流はなく生活に張りがあるとは言えない。体重だけは順調に落ちてきている。」
どこに問題があるの?と思われた方もいると思います。ここで大切なのは、「年齢」を考えなければならないということです。高齢者のみを対象とした最近の研究では、BMI(体格指数)が低いほど死亡率が高くなるという成績も発表されています。つまり、高齢者はある程度の体重を維持することが大切であり、過度の誤った食事制限や運動は逆効果になる可能性があるのです。
例えば①の方に対しては、ベジファーストを見直し、しっかり食べて欲しいたんぱく質から順番に食べること。少し濃い味付けになったとしても、毎日の食事を美味しいと感じてもらいながら、しっかり食べていただくことを優先すべきと考えます。また、人と会話をすることが減ると、お口の筋力低下による咀嚼障害が生じ、主食がお粥に置き換わってしまうケースがあります。この方のように「1膳食べているから大丈夫」とおっしゃる方も多いですが、米飯1膳に比べて全粥1膳のエネルギーは約半分であることに注意が必要です。つまり、今の体重を維持するためには、その年齢や病態に合わせた“正しい食べ方”や“エネルギーを確保する方法”を知っておく必要があります。
②の方は、中年期の時に刷り込まれた知識(米・肉・油の摂り過ぎはダメ)を未だに引きずり、運動によるエネルギー消費量を補い切れていないため体重が減少してきています。ただ、ご本人は「順調に減量できている」と考えていることが一番の問題であり、その誤解を解く必要があります。運動をして筋肉をつけるためには十分な材料が必要です。つまり、各種の食品からバランスよく栄養素を摂取するとともに、しっかりエネルギーをとることが大切となります。
このような時にmealtimeの「パワーアップ食」がおすすめです。私達に必要な栄養素がバランスよく摂れるだけでなく、普段の食事と同じ量でも効率よくエネルギーが摂取できる工夫がされています。
※患っておられる疾患により、お食事の内容等が異なるケースがあります。まずは、医師や管理栄養士にご相談されることをおすすめします。
2.「体重管理」を忘れずに
痩せたいと思っていないのに体重が減少する「意図しない体重減少」はご存じでしょうか?これには十分注意が必要です。そのためにも毎日決まった時間に体重を測定・記録することをおすすめします。また、医師や管理栄養士とお話しする機会があれば、記録したものを持参するようにしましょう。
3.「人と繋がる」ことを大切にする
フレイルとは「加齢に伴い心や身体が衰えた状態」のことを言います。また、フレイルの発症には、筋力低下や低栄養などの「身体的要因」、閉じこもりや独居などの「社会的要因」、認知症やうつなどの「精神的要因」などが相互に関係していることが知られています(図1)。 なかでも、「社会的要因(≒人との繋がり)」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって大きな影響を受けました。実際、千葉県柏市で行われた大規模な研究によると、フレイルには、身体活動に加えて文化・地域活動(人との繋がり)が極めて重要であることが示されています。
2023年5月8日より、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に移行されました。これに伴い、地域での活動が再開されるところも多いと思います。フレイルを予防するためには、「しっかり食べて・しっかり運動」だけでなく、積極的に「人と繋がる」ことで、その効果を上げることが期待できます。さぁ、まずは近くの方との交流機会を増やし、張りのある充実した日々を送っていきましょう!
筆者
患者様とどのように接しているか
患者様の「生き方」から学び、そのことを尊重した“心ある支援”に努めています
卒業した学校
神戸学院大学 栄養学部
神戸学院大学大学院 食品薬品総合科学研究科
好きな食べ物
スープカレー、さんまの刺身