mealtime

Beyondコロナの栄養と食生活(田貝 泉)

ポジティヴヘルスの考え方

 2022年の日本人の平均寿命は、新型コロナウイルスの流行で高齢者の死者が増えたことが影響し、2年連続で前年を下回ってはいますが、男性81.05歳 女性87.09歳です。このような超高齢社会は、一人で2つ以上の慢性疾患をお持ちの「多疾患併存状態」で、病気や障害を抱えながら、寿命を全うする時代とも言えます。

2023年5月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に移行となりましたが、コロナ禍での外出自粛や地域活動の中止などが、高齢者に与えたダメージはとても大きかったですね。様々な論文にて、高齢者の身体活動量や社会参加が減少しフレイル化やサルコペニアの進行のリスクが高まったと報告されています。[1]

このような時代においては、WHOの「身体的、精神的、社会的にすべてが完全に良好な『状態』という健康の定義はあてはまりにくくなってきています。それよりも、2011年にオランダの家庭医マフトルド・ヒューバー氏が発表した「疾患や障害があっても、周りの力などを支えにして、気落ちすることなく人生を前向きに歩いて行ける『能力』、その力こそが健康!という「ポジティヴヘルス」の考え方が当てはまるのではないでしょうか?「ポジティヴヘルス」とは、「社会的、身体的、感情的な問題に直面した時に適応し、本人主導で管理する能力としての健康の概念です。「身体の状態」「心の状態」「生きがい」「暮らしの質」「社会とのつながり」「日常の機能」という6項目で構成されています。(図1)

図1 出典:Institute for Positive Health作成

生きがいについて

 このチャートで私が特に注目したいのは、「生きがい」です。神谷美恵子氏の著書「生きがい」によると生きがいとは、自分がやりたいことをやる、未来に希望を持つ、誰かに必要とされていると感じる、使命感に従う、変化と成長を感じると記されています。生きがいと感じてもらうためには、何よりも本人の選択が重要です。医療職や家族がついやりがちなのは、〇〇が健康に良いからと本人の気持ちを考えずに押し付けてしまう事です。 いくら、“〇〇健康法”が身体に良いと勧められても、本人が納得し本当にやりたいと思っていなければ「生きがい」にはつながりません。特に食は文化であり歴史でもあります。長年培ってきた食習慣を一朝一夕に変える事は困難です。
今まで接してきた患者様の中には、「生きていても何もいいことはない。長生きはしたくない。」とおっしゃる方もいて、そんな方に食事療法の話をしてもなかなか聞いてはもらえません。しかし、「低栄養状態だと身体がしんどく、免疫力も落ちてきてさらに感染症など他の病気にもかかりやすくなりますよ。」とお伝えすると、「これ以上しんどくなるのは嫌。簡単にできそうならやってみようかな。」と言われたりします。
その方の性格、興味や関心、身体機能、経済状況、台所の調理器具などお一人お一人違いますが、食生活の改善が生きがいにつながったらいいなあと考えてサポートしています。

SOC理論について

 人は目標を達成することでポジティブな感情や幸福を感じることができるとドイツの心理学者バルテスによってSOC理論が提唱されました。老年期に残された身体的資源や認知的資源を効率よく使用し、喪失以前の生活を取り戻すために目標の調整や変更を行っていく理論です。選択的最適化理論ともよばれ、老年期のQOLを向上させるための方略です。

栄養や食生活にあてはめて考えると、例えば、普段の食事をコンビニ弁当や菓子パンなどですませている高齢者の場合、①は、健康のために手作り料理を行う。②は、電子レンジ調理やポリ袋を使用したパッククッキンング、包丁のかわりにハサミやスライサーなど簡単な調理器具を使用する。③は、市販の総菜や冷凍食品、レトルト食品にちょい足し、体調の良い時に作り置きする。という具合です。

心のパワーアップがはかれる食事

 お料理は、美味しく栄養価が高いだけでなく五感を刺激して“わくわく”する気持ちも大切だと考えています。遊び心と言ってもよいかもしれません。

①カプレーゼ風サラダ

トマトを薄くスライスし、1/6にカットしたスライスチーズ、

青しそ(あればバジル)を順に並べ粗びきこしょう、塩、

オリーブ油を適量かけます。

②キウイパフェ

キウイは、ビタミンCが自律神経の働きを整えるホルモンの生成を促し、免疫力を高めると言われています。オートミールを下に入れる事によって食物繊維も摂取できます。

③ボリュームサンドイッチ

食パンにバターを塗り、思いっきりたくさんの具を入れてラップで包みます。包丁で切る時のわくわく感がたまりません。

④パプリカの天使サラダ

パプリカは、赤・黄いろ・オレンジと色鮮やかで見ただけで元気をもらえそうですが、ビタミンCやビタミンEも多く含まれ美容のためにも良さそうですね。

今回は、種を取り除きポテトサラダやコーン、紫玉ネギを入れ、青しそを羽にみたて飾ってみました。パプリカは生でも食べれますが、やわらかめを好まれる場合には軽く電子レンジにかけてください。市販のお総菜の容器として利用してみてはいかがでしょうか?

「病は気から」とも言いますが、わくわくした気持ちを持ち続け、食生活を見直すことによって体調管理をして頂けたら幸いです。気軽にご相談できる管理栄養士が、ミールタイムや全国の栄養ケアステーションにいますのでどうぞお声掛け下さい。


[1] COVID-19 による地域在住高齢者へのフレイル化の関連論文covid_search.pdf (jpn-geriat-soc.or.jp)

患者様とどのように接しているか

① 本音で何でも話せる雰囲気を作ります。
②その方が何に興味を持たれていて、今後どうなりたいか、あるいはどうなりたくないと思っておられるのかを伺います。
③一緒に目標を考え、それに向かってサポートしていきます。

卒業した学校

大阪教育大学大学院教育学研究科(健康科学専攻)

好きな食べ物

シーフード(貝類)